インプラントにはアバットメントと呼ばれる重要なパーツがあります。
見た目を左右し、噛み合わせのための微調整などの重要な役割があり、インプラント治療の成功を左右するパーツといえます。
この記事では、アバットメントを組み込むタイミングや役割・種類、装着時の注意点などを紹介します。
アバットメントを正しく装着することはインプラントを長持ちさせるポイントとなるため、ぜひ参考にしてください。
アバットメントとは
アバットメントとは、インプラント治療に必要なパーツの名称です。
はじめに、アバットメントの役割や使用方法などについて紹介します。
インプラントを構成する部品の一つ
アバットメントとは、インプラントを構成する部品の一つで、他のパーツ同士を連結するという大変重要な役割があります。
インプラントは3つのパーツで構成されています。
- インプラント体(人工歯根)
- アバットメント(土台)
- 人工歯冠(上部構造)
アバットメントは、顎の骨に埋入されるインプラント体と、インプラントの一番上に被せられる人工歯冠とを連結するパーツです。
連結の他にもさまざまな役割を果たすパーツであり、アバットメントがあるおかげで、インプラントは自前の歯のように違和感なく物を噛めるといえるでしょう。
アバットメントを組み込むタイミング
アバットメントには2種類あり、術式によって使い分けますが、どちらを使用するかによって組み込むタイミングも変わります。
術式と使用するアバットメントの種類は以下です。
1ピースタイプ | 2ピースタイプ | |
---|---|---|
使用する 術式 |
一回法(歯茎の切開が1回)
顎の骨に十分な厚みがある場合にできる術式 |
二回法(歯茎の切開が2回)
ほとんどの症例でできる術式 |
形状 | インプラント体とアバットメントが一体化 | インプラント体・アバットメント・人工歯冠の3つで構成 |
組み込む タイミング |
1回目の切開時 | 2回目の切開時 |
一回法は切開後に1ピースタイプのパーツを埋め込み、歯肉から少し出た状態のまま、縫合しません。
二回法では一度目の切開時にインプラント体を埋め込んで縫合し、3~6ヶ月の間インプラント体と骨が結合するのを待ち、その後もう一度切開してアバットメントを装着する方法です。
インプラント治療の主流は二回法で、一回法を行っていない歯科医院もあります。
どちらの術式を行うかは歯科医師の判断によります。
ネジを締めて連結
1ピースタイプはインプラント体と一体化しているため単独の装着はありませんが、2ピースタイプの場合、アバットメントがインプラント体と人工歯冠をネジによって連結します。
1ピースタイプはネジの緩みの心配がなく、強度に優れています。
ネジは長期間の使用によって緩むこともあるため、定期健診での調整が必要ですが、ネジであるおかげで取り外しができるため、不具合が発生しても微調整が可能です。
アバットメントの役割
アバットメントは、インプラントを装着するにあたってさまざまな役割をこなす優秀なパーツです。
ここでは、2ピースタイプにおいて単独で装着されるアバットメントの役割について紹介します。
インプラント体と人工歯冠を連結する
アバットメントの主な役割は、インプラント体と人工歯冠を連結することです。
2ピースタイプは3つにパーツが分かれていますが、連結が必要な構造にすることで、取り外しが可能となっています。
どこかに不具合が発生してもアバットメントがあるため、微調整やメンテナンスなどが簡単に行えます。
インプラントの強度を上げる
アバットメントにはクッションのような役割があるため、インプラント体の強度が上がります。
インプラントが強い衝撃を受けた際、アバットメントがその衝撃を受け止めて折れることで、人工歯冠とインプラント体を守ることが可能となります。
また、インプラント体に負荷を直接伝えないため、日常で使用するうえでの咀嚼のダメージも和らげます。
長く使うためのインプラントの強度は、アバットメントによって高められています。
上部構造の傾きを補正し、保護する
アバットメントには、インプラント体が埋め込まれた角度によって生じる人工歯冠の傾きを補正する働きがあり、偏った負荷をかけないことで人工歯冠を保護します。
顎の骨の状態によっては、インプラント体をまっすぐ埋入できない場合があります。
適さない角度での咀嚼で無理な力がかかると人工歯冠の耐久性にも影響し、審美的にも正常な仕上がりとはいえないでしょう。
アバットメントにはそういった問題を解決するための、傾きの調整ができる構造をしています。
噛み合わせの高さを調整
アバットメントには傾き調整の他にも、噛み合わせに影響する高さの調整も可能です。
インプラント体は顎の骨に埋め込みますが、その厚さや状態などは人それぞれに違いがあり、微妙な高さまで調整して埋め込むのは傾き同様至難の業です。
アバットメントはネジによって連結されているため、患者さんの噛み合わせに適した高さ調整が可能です。
インプラント体を目立たせない
アバットメントがあると、金属製のインプラント体が目に付くことがほぼないため、審美性が保てます。
インプラントにはアバットメントがあるため、インプラント体の上部が完全に歯茎に隠れるように埋めることができます。
もしインプラントにアバットメントがなければ、歯周病や老化などで歯茎が下がってきた場合、インプラント体が見えてしまいます。
アバットメントがあれば、歯茎が下がっても見えるのはアバットメントです。しかしそのアバットメントも金属の場合は目立ちます。
アバットメントにはさまざまな種類があるため、審美性を重んじるのであれば、素材を選ぶことで歯茎にトラブルが生じても見た目を損なうことがないでしょう。
アバットメントの種類
アバットメントには紹介したようにさまざまな役割があります。どの役割に重きを置くかで選ぶアバットメントが違ってきます。
ここでは、アバットメントの種類によって変わる特徴や、メリット・デメリットを紹介します。
なお、費用が高額なものから順番に紹介しているため、ご参考ください。
ジルコニア
酸化ジルコニウムが使われているジルコニアは、その硬さが金属に匹敵するセラミック(石)です。
白色の素材であり、金属が溶けだすことでの歯茎の変色などがなく、歯茎が下がってアバットメントが見えても審美性が保たれます。
デメリットは、自然歯よりも硬いため、周囲の歯や噛み合わせの歯を傷める可能性があることです。
金属アレルギーの心配がないため、インプラント体もジルコニアで製作することが可能です。
金合金
金を合金した金属で、硬さがほどよく生体親和性と展延性(破断せず柔軟に変形する性質)が高いため、人工歯根の素材に適しています。
一方金は費用が高くなりがちであるのと、歯茎が下がった時に金色の素材が目立つところがデメリットです。
チタン合金
チタンやアルミニウムなどで構成されたチタン合金は強度・耐食性・耐久性に優れた素材で寿命が長く、多く使われている素材です。
骨と結合しやすく、歯茎に密着しやすいためインプラントが固定されやすいというメリットがあります。
金属のため、金と同じで歯茎が下がると目立ちます。費用は純チタンよりはやや高く、金合金よりは安価です。
純チタン
99%ほどをチタンが占めている純チタンのアバットメントです。
チタン合金より費用が抑えられ、加工もしやすい反面、チタン合金よりも耐食性や強度が低いところが難点です。
チタンはアレルギーを起こしにくく、インプラント体のほとんどが純チタンかチタン合金です。
同じチタンでもインプラント体と素材を合わせるとひずみ等が生じにくいため、インプラント体が純チタンであればアバットメントも純チタンにすると、装置としての寿命が延びやすくなります。
プラスチック
プラスチックのアバットメントは天然の歯よりも強度が低く、実用には適していません。
インプラント治療中の仮歯のときに、短期的に利用されます。
もし仮歯で使用しているときに破損しても、最終的にはもっと強度のある素材を使用して治療を完了するため、心配はいりません。
1ピースタイプ
1ピースタイプは、インプラント体とアバットメントが一体化しているため、アバットメント部分に問題が起こった場合、アバットメントだけ外すということができず、インプラント体ごと除去する必要があります。
加えて、人工歯冠の微妙な角度の調整ができないため、歯冠の形状で調整するのみとなります。
しかし、ねじ止めではないためねじの緩みの心配がありません。
一体化しているため強度が高く、シンプルな構造のため問題が起こりにくい、切開は1回、費用が抑えられるなど、メリットもいくつかあります。
1ピースタイプは、顎の骨に十分な厚みがある場合に行える一回法でしか使用されないため、誰にでも選べるパーツではありません。
ヒーリングアバットメント
ヒーリングアバットメントは、一回法の術式で2ピースタイプのパーツを使用する際に、切開後のインプラント埋入後にアバットメントの代わりとして一時的に入れるアバットメントです。
通常のアバットメントと比べると少し背が高く、着けることでインプラント体が安定するため、骨との結合を促進します。
他にもスペース確保や傷口の保護などの役割を担い、後日、通常のアバットメントと交換します。
アバットメント装着時の注意点
アバットメントの装着時の注意点を紹介します。
以下のような場合はアバットメントに何か問題が起こっているかもしれないため、我慢せず早めに主治医に相談しましょう。
噛み合わせが悪く感じる
アバットメントの装着に何か問題が起こっていると、噛み合わせが悪いように感じる場合があります。
アバットメントは調整によって噛み合わせの改善が可能なパーツです。
噛み合わせが悪いまま使用を続けると、インプラント体に偏った圧力がかかるため、咀嚼に支障をきたし、発音も悪くなる場合があります。
歯科医院に早急に連絡して、調整するなど対応してもらいましょう。
痛みを感じる
アバットメント装着後に痛みを感じる場合は、アバットメントの緩みなど何かしらの問題が起こって、顎の骨の負担が増えている可能性があります。
そのまま使用を続けていると、人工歯冠やインプラント体が破損したり、顎の骨に炎症が起こる危険性があります。
アバットメントの緩み程度であれば対応は容易な場合がほとんどです。様子を見たりせず、すぐに治療を行った歯科医院を受診してください。
インプラント体が脱落する
インプラント体の脱落は、アバットメント装着後の深刻なトラブルです。
脱落が起こる原因は、アバットメントが外れたり緩んだりすることとされています。
インプラント体の脱落は、インプラント治療の失敗を意味します。
痛みを感じたりぐらついたりしている時点ですぐに対応できれば、脱落を避けられるかもしれません。
もしインプラント体が抜けてしまった場合は、自分で挿し直すことは感染症を引き起こす危険性があるため厳禁です。
脱落したパーツは再利用できることが少なくありません。全て保管し、できるだけ早く受診してください。
ティッシュなどにくるむとゴミと間違えて捨ててしまうことがあるため、中身が見える透明なケースなどにいれ、破損のないようしっかり保管し、持参しましょう。
まとめ
インプラントのパーツは、さまざまな口腔内の症例になるべく多くに対応できるよう、とても優秀な機能と技術を結集して用意されています。
高額な費用と長い時間をかけてでも行うインプラント治療は、自分の歯で遠慮なく食事ができるという、何物にも代えがたい日常を取り戻すことができます。
アバットメントはその中でも重要な役割のためにあるパーツです。治療完了後は定期健診によって、しっかりとメンテナンスしていきましょう。
小嶋デンタルクリニックには、開院以来多くのインプラント治療に携わってきた実績があるからこそ提供できる治療があります。
最近では、他院で受けたインプラント治療についても相談を多数いただいています。
ご相談だけでも結構です。小嶋デンタルクリニックにお気軽にお問い合わせ下さい。